2015年8月30日日曜日

「日本のいちばん長い日」

終戦後70年を経た夏でもあるし8月のうちにと心して、原田眞人監督・脚本の「日本のいちばん長い日」。これはね、海軍出身の鈴木貫太郎・内閣総理大臣と阿南惟幾・陸軍大臣、それにクーデターを謀る畑中健二・陸軍少佐の主として3人に焦点を当てたプロット構成で、特に前の2者は家族の生活を描くきキャラクターを際立たせる演出によるヒロイズムの語り口で、一定程度、幅広い客層に媚びたエンターテイメント性を確保している。実際、山﨑勉、役所広司の両優も快演である。ヒロイズといえば、当然、そこに昭和天皇を加えてた観方も成り立つ。映画作品の出来として、それがよかったのか、悪かったのかは、まだ、判断できていない。ただ、やっぱり、自分より若い戦後世代には「つかみ」として、観ていただきたい映画であるとは思った。昭和天皇による8月15日の玉音放送は録音盤によって行われた、ポツダム宣言・終戦受諾を容易に受け入れない軍部の動きが多々あった、実際に玉音盤奪取の危機もあった――などは、「教科書に書いてない歴史」で、55歳の私も実は岡本喜八監督版の「日本のいちばん長い日」(1967)を観て認識した。初見は30代、そこそこ遅かったのだが。
雑誌のコメンテーターの映画寸評の中に「オリジナルを見直したくなった」みたいのがあったが、そもそも史実に取材、証言を集めた半藤―利氏のドキュメンタリーが原作なんで、「岡本監督版のリメイク」との余念はバイアスではと思ったり。
あと、将校ら日本軍の論理の諸相、あるいは「国体護持」の如何、これも冷静な議論を聞いてみたくもあり。

「日本のいちばん長い日」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★★★
※たぶん、「自己満足度」より「お勧め度」の★が多くなったの本作が初めて。

2015年8月27日木曜日

〈歌追い人〉

DVDにて待望の「ソングキャッチャー~歌追い人」(マギー・グリーンウォルド監督、2000)を拝見。通俗なエンターテイメントというよりは、私らルーツ・ミュージックに興味を抱くものの関心度合いをくすぐるテーマ性を据えた、女流監督の脚本による作家性の色濃い作品であった。
1907年の時代設定で、旧態依然であった当時の大学アカデミズムの世界では活躍の場が限られていた女性の音楽研究者が、ノースカロライナ州のアパラチア山中での村暮らしへと転じる。ブリテン諸島から移植され、都会に顕著な社会の近代化の影で歌い継がれてきたバラッドの数々に出会い、録音、楽譜起こしと収集を始めるわけだ。主人公モデルの有無や同定はともかく、それらの行為は確かに営まれて現在につながってきた面は否めない。
録音といっても初期の手法で機材も大がかり、レコード盤=蓄音機あるいはラジオといった音楽ビジネスの技術革新と大躍進への端緒が間もなくといった時代設定も絶妙。ムラ意識の強い土地柄と荒っぽく粗野な男性、その対局で悲哀ある女性たちの山の暮らしぶりが描かれる。
主人公の女性研究者のバラッド収集、採譜、出版へもといった活動は、暮らしの中で歌い継いできた人々の目線からは「音楽を盗む」行為ではないかという疑義が、プロットに織り込まれている。ストーリー・テリングとしてもうまいアヤ、この視線、忘れるべからずだな。
視聴前にミュージシャンの出演とパフォーマンスの予備知識はなかったもももの、ブラック系のタージ・マハールはやや取って付けた感じ、アイリス・デメントとの遭遇はラッキー感があり、まずまずと受け止めた。
バラッドはエンドロールを見ると、18曲くらい使われていて、エンディング・テーマでエミルウ・ハリス歌唱のものなど、最も象徴的なのは「バーバラ・アレン」。ストーリーの柱には、こうして現在、記録されているもの以外に、「失われたしまった」楽曲も多々あろうという哀歓もにじませる。
調べてみると市販のサウンドトラック盤は、映画音源というよりは、「インスパイア」もののVAアーティストで、これはこれで興味を持ってしまった。調達しようか。
DVDなんで、スタッフ、キャストのインタビューを流し観ると、この映画の世界観やルーツ・ミュージックに関する認識は、米国社会でも確立しているとはいえないらしい。

「ソングキャッチャー~歌追い人」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆

◆追記◆
「歌追い人」にインスパイアされたコンピレーション・アルバム(2015/10/11)