2013年6月27日木曜日

「グランド・マスター」

ウォン・カーウァイ監督の新作だというだけで、とりあえず観た「グランド・マスター」。アン・リーが世界に示し、チャン・イーモウ、チェン・カイコーも試したワイヤー・アクションを駆使した武侠劇の範疇、あるいは、ジェット・リーが「スピリット」(ロニー・ユー監督、2006)で霍元甲(フォ・ユァンジャ)をヒロイックに演じたようなアクション伝説劇の類いと思いきや、カーウァイらしき映像センスをちりばめた一風変わった香港映画、近代の中国武術実録伝とは、、、。とは、いってもアクションに限らず、エンターテインメントを意識した脚色があるのは分かるが、大河ドラマとしての収まりは半端に見える。
中国武術の奥行きと継承の語りかけには、まあ共鳴。回想語りのトニー・レオン演じる主人公は、ブルース・リーを輩出した流派・詠春拳の宗師である葉問(イップ・マン)。かつての香港のエンターテイメント武侠映画には、清朝末期の伝説的武術家・黄飛鴻(ウォン・フェイホン)を、よく見かけたが、この映画の葉問はそれらとも、リーの霍とも、全く別のコンセプトでアプローチされている。そこが、映画に馴染めるか否かの分かれ目ともいえるが。
これら中国武術のマスターたちは、私も含め多くの日本人にとっては、縁遠い限り。と思って観ていくと、葉問の大きな転機は、やはり、故郷・広東省佛山の家屋を日本軍の進駐によって接収された件。ことほど左様に、このシーンでは李香蘭「何日君再来」2011/12/13がかぶってくる。
しかし、香港では近年、葉問へのフォーカスが強まっているのか、別プロジェクトの連作も進行中。ドニー・イェン主演の「イップ・マン 葉問」(ウィルソン・イップ監督、2010)を観たっきりなので、関連の前後作品も、あらためて観てみたいという気持ちにはさせてもらった。

「グランド・マスター」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★★☆☆

2013年6月26日水曜日

フォルサム・プリズンのレジェンドといえば、

『Johnny Cash At San Quentin』続きで、『Johnny Cash At Folsom Prison』を聴き直してみる。こちらも2CD+DVDのレガシー・エディション。フォルサム・プリズンのレジェンドといえば、初発のライブ・アルバムLPで象徴的に締めとして収録された「グレイストーン・チャペル」、そして、この獄中ゴスペルのような楽曲をつくったのは、当時のフォルサムの住人、グレン・シャーリー(Glen Sherley)であったこと。キャッシュが刑務所関係者からの録音テープ提供でこの曲の存在を知らされたのはライブ前日で、すぐに当日の演目採用を決めたという。レガシー版のDVDはドキュメンタリー映画で、マール・ハガード(Merle Haggard)、ロザンヌ・キャッシュ(Rosanne Cash)らと、当時の囚人たちのインタビューも収めており、グレン・シャーリーにかかる描写も多い。
ここで、輸入盤につき、やはりもっと英語力をつけねばと、観るたびに心してしまう。自戒。
出所の機会を得たグレン・シャーリー、社会復帰に歩み出すが、心の闇(病?)と暴力傾向は矯正された訳ではなく、1978年に銃で自殺を図ったという、何ともリアルな現実譚であり。
しかし、『At San Quentin』といい、『At Folsom Prison』といい、刑務所チャリティーにしては、ちょとわが国では採用しづらいのではと思える「25ミニッツ・トゥ・ゴー」、「グリーン、グリーン・グラス・オブ・ホーム」、「ロング・ブラック・ヴェール」、「ダーク・アズ・ア・ダージョン」などと、カントリー・フォークのスタンダードにゴスペル、ジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)ならではのオリジナルを交えたプログラムの妙はさすが、飽きが来ない。
うん?、『At Folsom Prison』収録のコミカル調、いわゆるノベルティ・ソングっていうのか、「フラッシュド・フロム・ザ・バスローム・オブ・ユア・ハート」って、「大きなまだらの鳥/アイム・シンキング・トゥナイト・オブ・マイ・ブルー・アイズ」(2013/05/11)の派生曲だったの??クレジットは、サン・レコードのプロデューサー&ソング・ライター、ジャック・クレメント(Jack Clement)となっているが、、、

◆参考◆
グレン・シャーリー本人のパフォーマンスで。YouTubeから引用、紹介です。

◆追記◆
『Johnny Cash At San Quentin』「グレイストーン・チャペル」に相当する楽曲として「アイ・ドント・ノウ・ホエア・アイム・バウンド」(2000年リリースのCDに収載)があった。クレジットはT.Cuttie、囚人の詩にジョニーが曲をつけたものという。経緯は不勉強、課題リスト入り。
◆さらに追記◆
その後、ウィーバーズ(The Weavers)とか聴き直していると、ふと、「グレイストーン・チャペル」の旋律は、カウボーイ・ソング「オールド・ペイント」を下敷きにしているじゃん、と思った。ジョニー・キャッシュもこの元歌を「アイ・ライド・アン・オールド・ペイント」のタイトルで歌っているが、初録音はいつかな?リンダ・ロンシュタット(Linda Ronstadt)のバージョンもあったね、カウボーイ・ソング、あんまり意識していなかった。(2013/09/17)

2013年6月24日月曜日

カントリー・レジェンド

カントリー・ミュージック界に伝説は多々あれど、やはり、ジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)。自分自身もそうなのだが、たぶん「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」(ジェームズ・マンゴールド監督、2005年)公開までは、日本でのキャッシュ認知度は限られて薄いものであったのだろうな。そのバラッドあるいはトーキング・ブルース調でストーリーを唄うカントリー・フォークといい、「罪悪感」に贖う心の戦いなのかゴスペルへの傾倒といったルーツ・ミュージックを愛する姿勢に裏打ちされた音楽性がすぐに好きになり、ロカビリー&ロック・シーンの揺籃期を担ったノベルティある独特のリズムにも吸引された。
ジョニー・キャッシュをまとまって聴く機会はなかったけど、廉価版などを利用して徐々に消化中。自らの薬物依存と違法薬物がらみの逮捕歴もあってか、アルコール依存症のジョージ・ジョーンズ(George Jones)を支援したとか、マール・ハガード(Merle Haggard)がカントリー・ミュージシャンを志したのは服役中、慰問コンサートでキャッシュの演奏に心動かされたのが契機などというのも、レジェンド・バリエーションの一画を成す。マール・ハガードが入所していたのは、サン・クエンティだった?と思い出して、このほど、CD2枚組みプラスDVDの『Johnny Cash At San Quentin』(legacy edition)を調達してしまう。
このライブは映画の導入で模写されたフォルサム刑務所でのライブ収録の翌年で1969年、この時点ではもちろんハガードは壁の外の人。付録ブックレットのインタビューによると、キャッシュとの出会いは1958年の正月(出獄は1960年)ということで、キャッシュの刑務所慰問活動は長きにわたるものであったことにあらためて感心する。『At San Quentin』は、『At Folsom Prison』のパフォーマンスに比べても遜色なく、音質はかえっていい感じ。カーター・ファミリー(The Carter Family,Maybelle & Sisters)、カール・パーキンス(Carl Parkins)、スタットラー・ブラザーズ(The Statler Brothers)と、ABCネットワークで同年スタートしたTVショーのホスト・メンバーの演奏・共演もほどよく採録され、それぞれよい感じだ。
そう、やはり映画でも描かれていたが、キャッシュテネシー2がゴスペルを演奏してサン・レコードのオーディションに臨んだ1954年、敏腕プロデューサーのサム・フィリップス社長の耳にとまったのは、ゴスペルの当てで演奏したオリジナルの「フォルサム・プリズン・ブルース」であった。解き明かしたくなるレジェンドの由来はつきないなぁ。

◆追記◆
フォルサム・プリズンのレジェンドといえば(2013/06/26)
フォルサムからクレセント・シティにもどる(2014/08/07)

2013年6月20日木曜日

「奇跡のリンゴ」から「くちづけ」へと、

「奇跡のリンゴ」(中村義洋監督)、「ローマでアモーレ」(ウディ・アレン監督)、「くちづけ」(堤幸彦監督)と、賛否分かれそうな映画の鑑賞が続くが、それぞれに味わいがあって私は楽しめた。「くちづけ」に関しては、「楽しめた」というのは不適切か。東京セレソンデラックスという劇団の宅間孝之氏の戯曲が原作ということで、この映画化まで認識がなく不見識を思い知る。映画は、知的障害者のグループホーム・セットや宅間氏本人ら役者達の台詞回しと芝居、あるいは挿入歌として「グッド・バイ・マイ・ラブ」の採用などが、舞台を踏襲しているように見て取れる。ローカル・モードを醸した橋本愛嬢の埴輪ファッションも。監督の色は導入くらいで薄く、オリジナルへのリスペクトがあるのかなとも。ちょっと考え直して、カットバックに適してた映画表現に対しオリジナル戯曲の時制構造はどうなっているの?と気になるところ。いつか観る機会があれば。
で、映画の演出は「笑いを取る」台詞と演出をベースにしつつ、障害を抱えて生きる当事者と家族を巡るさまざまな問題が浮き彫りされるのは、たぶん舞台と共通なのだろう。現実社会へのアイロニーなのか、「差別」への感度が高まり表現が縮こまってきたように感じる昨今にあって、「障害(者の特徴)を演じる」ことの是非を含めて、相当踏み込んだパフォーマンスを提示していると思う。この辺も舞台がオリジナルであればこそか。
私的な映画鑑賞では、竹中直人は最も避けたいキャラクターを有する俳優だが、この作品では、さして気にならなかった。これも幸い。
「奇跡のリンゴ」「くちづけ」で賛否の分かれ目は、映画に求めるエンターテイメントの質のとらえ方とシナリオ素材の考証にあるのかな。それを置いておいても、「奇跡のリンゴ」中村監督は職人技の無難なつくりをしたと思う。阿部サダヲ、相変わらずの怪演、プログラム・ピクチャーのヒロインを装うような菅野美穂もコントラストになっている。こちらも、農業の営み、農家の働き方と暮らしを知るという、問題提起がこもっている。

「くちづけ」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★★☆
※創作のあり方で刺激を受けて感じて(考えて)みたい方には★プラスで

「奇跡のリンゴ」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★★★☆

2013年6月17日月曜日

「ローマでアモーレ」

いつの間にか、欧州ロケーションがシリーズ化されたようなウディ・アレン監督の新作は「ローマでアモーレ」。人によっては笑えない、楽しく見れないかも。でも長年のアレン・ファンなら、情緒やエピソードの帰結を求めるのではないところで、納得づくで見流せるコメディであるに違いない。満載のギャグの品格は、わが国の古典落語に相当。80歳の大台がみえてきたアレン本人も出演、セックスから政治、相変わらずの神経症的アイロニー・トークをかまし連ねる。この分、作品コンセプト自体が皮肉に埋もれてしまったようにも思えるが。ペネロペ・クルスや地元のロベルト・ベニーニら、いつに増して大勢の役者達のパフォーマンスは見どころだな。「JUNO」のエレン・ペイジとか、ジェシー・アイゼンバーグ(「ソーシャル・ネットワーク」のザッカーバーグ!)とか若手もよいじゃん。毎度だが、キャスティングの妙というのもあり。

「ローマでアモーレ」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★☆☆☆

2013年6月15日土曜日

「旅立ちの島唄」

予告編を見て気になっていたので、「旅立ちの島唄 十五の春」(吉田康弘監督)。かのTPPのタイミングで南大東島が舞台。思春期に家族内の揺れ動きにみまわれつつ、真摯に生きてしっくりと成長する少女の一年を描いた、映画ではよく取り上げられるプロットは普遍性がある。主演の三吉彩花嬢もよし。そして離島生活の情緒、島唄の力が映画を彩り豊かにしている。高校がないので、中学を卒業すると進学のため沖縄本島などへ旅立っていくのだそう。八丈島出身者によって開発された島ということを教えていただいたのたが、沖縄系の島唄(元来、シマウタは奄美民謡と思われるが広義の通例で)もよく息づいていると見える。卒業記念、村の催事で旅立つ子らが披露する島唄の一つが「アバヨーイ」(それなりに近年の新作楽曲らしい)。民謡教室の師匠が「泣かないで唄うのがよい」とか、心得を指南する意味合いがよく表現された演出、映画の主題に共鳴した。
しばらく、御無沙汰していたが、沖縄・奄美民謡、島唄も大好き。奄美、石垣、宮古などローカル性は分かるつもりだったが、大東は意識していなかった。また、ひと通り聴き直してみようか。
井筒組での足跡が多い吉田監督、デビュー作?「キトキト」(2006)もやはり家族劇、面白かったなー。

「旅立ちの島唄 十五の春」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★★☆

2013年6月11日火曜日

「きっと、うまくいく」

劇場鑑賞の優先順位がしばらく後回しになっていたインド映画で、久々に思い切って「きっと、うまくいく」(ラジクマール・ヒラニ監督、2009)。現代インドの活況を投影したエンターテイメント大作として楽しく見ることができた。シビアなテーマも織り交ぜて、「自殺」って先進国病なのかな。競争社会を風刺し、ユモーアと友情を糧に暮らしの豊かさに理想を求める、アプリオリに楽天的なコメディ・コンセプトは、大衆娯楽映画のゴールド・スタンダード。わが国にも経済成長の過程にこのような時勢があった、インド映画同様、歌や踊りに満ちた幸せな映画がたくさんつくられた時代があったと、思い出させられる。最近はホラーやサイコ・スリラーで辟易していたた分、個の嗜好を意識しジャンル化が進んだ先進国の映画製作界での、娯楽映画の王道の影が薄くなったのかなぁと思ったり。
「きっと、うまくいく」、でも、170分は長いかな。大学卒業後、行方不明の主人公を探すロードに、大学時代のエイピソード多々がカットバックされるシナリオ構造だが、3バカ学生の退学危機譚の一部など、上手ではないストーリー・テリングもあるように感じた。而して、技巧優位でなく、ドラマ描出に活力があふれているのは楽しさの源。

「きっと、うまくいく」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★★★

2013年6月8日土曜日

「イノセント・ガーデン」より〈パブリック・エネミーズ〉が、

パク・チャヌク監督の新作、ハリウッド作品ということで週末に「イノセント・ガーデン」。俳優を含めスタッフのクオリティと技術レベルの高さはよく分かるものの、ミステリー仕立ての「サイコ・キラーの覚醒」という顛末譚には、ほとんど退屈、結果、くすぶる不満の埋め合わせは終映まででききずじまい。ミア・ワシコウスカという若手女優の映画としても、モチベーションに響かず。監督の意気込みを反映した策の弄し過ぎで、あざとさばかりに目を奪われ、映画が楽しめなかった。
ダーク・サイドつながりか前後して、TV放映録画ストックから「パブリック・エネミーズ」(マイケル・マン監督、2009)を流し見る。ジョン・デリンジャーという1930年代に世間を騒がせたギャングの実録ものの語り口は淡々としていて、ジョニー・デップ、クリスチャン・ベールらスターキャストだけど、こちらは意外(封切り時は敬遠)にもしっくりきた。悪くないじゃない。
スタンダード好きなので、シナリオ・プロットではキーとしている「バイ・バイ・ブラックバード」、あるいはビリー・ホリディ歌唱のいくつかに得心、そして、終盤間際、捜査本部に迷い込んだように訪問したデリンジャーにかぶせた「ダーク・ワズ・ザ・ナイト、コールド・ワズ・ザ・グラウンド」には酔ってしまう。これブラインド・ウィリー・ジョンソンの音源?って思うほど、クリアなパフォーマンスに聴こえた。うっ、肝心の「バイ・バイ・ブラックバード」はだれが歌っていたのか、流してしまった。

「イノセント・ガーデン」の評価メモ
【自己満足度】=★★☆☆☆
【お勧め度】=★★☆☆☆

2013年6月6日木曜日

「はじまりのみち」

木下恵介生誕100年記念映画。監督はアニメ畑では知られた原恵一氏で、この大仕事、何故にと懐疑半分を抱えつつも、「河童のクゥと夏休み」(2007)、「カラフル」(2010)は拝見していて、作家としての感性と力量は感じていただけに、劇場へと足を運んでしまった。「はじまりのみち」、思っていたよりも地味とか、、、予断を振り払いつつ観て、静かなりに、よいじゃないと得心。浜松近辺、遠州というのか、方言・土地柄にも妙に心が誘引されたり、便利屋役の浜田岳が得意の狂言回しでアクセントとなっていたり。脚本も降ろしているだけに、監督による木下恵介作品とその人なりの読み込みと憧憬には真っ当さを感じた。
またまた、この時勢、現代における木下恵介作品の受容状況というのは、日本国憲法のよう、とも頭をよぎったたり。
原恵一監督、「クレヨンしんちゃん」の映画シリーズも観てみたいな。それ以上に、実写ではどんな仕事を手がけられるのか。要注目である。

「はじまりのみち」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆
※現代映画のかまびすさが苦手の方には★プラスで