2012年7月31日火曜日

ザ・バンド&ボブ・ディラン

シンコーミュージックからムック本『ザ・バンド&ボブ・ディラン』が発刊されているのを店頭で発見、音盤コレクターではないので、この手の出版物はこれまでほとんど購入していなかったが、さすがに入手してしまった。本年4月19日に71歳で逝去したザ・バンドのリーダー、レヴォン・ヘルム(Levon Helm)の追悼企画ということである。
1960年生まれで、十代のころはラジオ・テレビを媒介に内外の流行歌・コンテンポラリー音楽を聞いてきた私にとって、マーティン・スコセッシ監督の「ラスト・ワルツ」(1977)と、1978年のディラン初来日にあわせて発売されたコンピレーション・アルバムの3枚組LP『傑作』との出会いが、「アメリカン・ルーツ・ミュージック」への傾斜といった、現在につながる音楽嗜好を方向付ける契機になっていたと思い起こす。今も、ディランやレヴォンらを「ルーツ・ミュージックの伝道師」と見立てて、その音楽性を楽しんでいる。
さて、ゆっくりパラパラ読んでいきましょう。しかし、「ラスト・ワルツ」はサウンドトラック盤とは別に、完全版の4CDボックスが出ていたことも発見。レヴォンは追悼企画で『ダート・ファーマー』(2007)の本邦初CD化も。食指が動きそう。

2012年7月28日土曜日

「少年は残酷な弓を射る」

今週は、「ブラック・ブレッド」(アグスティー・ビジャロンガ監督、2010)、「少年は残酷な弓を射る」(リン・ラムジー監督、2010)と、二様のダークサイドに踏み込んでしまった。テーマのありようはともかく、正直、ともに後味はよくなかった。
後者は、弓を銃に置き換えると、物語の中核を成す事件自体は、度々、米国で発生しているそれ。「生まれて来る子はモンスター?」、あるいは、コントロールできずに「モンスターに育ってしまったら」といった懸念や恐怖は、もしかすると親となる人はだれしも、脳裡に潜んでいるのかもしれない。問題は血(DNA)に帰結するのか。「ローズマリーの赤ちゃん」(ロマン・ポランスキー監督、1968)、「オーメン」(リチャード・ドナー監督、1976)などは、同系のプロット設定を有しているが、根本的に異なるのは、この映画では宗教が払拭され、自由を享受できる現代人の陥穽である心理で劇作を試みたこと。
最近もメディア報道でクロース・アップされている、わが国におけるいじめ問題で加害者側の親と重ねるという見方も可能か?
カットバック多様のシナリオ構造、事件・行為の前後を描出する婉曲な演出はアート系映画で常套だが、成功しているとは言い難い。そう、「ミュール・スキナー・ブルース」に始まる楽曲の使用もグラフィティ調で同様。主演女優のはまり具合には感心と称賛。

「少年は残酷な弓を射る」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆

2012年7月26日木曜日

ゴスペルの迷路

『魂のうた ゴスペル 信仰と歌に生きた人々』(1997年、原題:GOSPEL LEGENDS)という邦訳本を読んでいるところ。著者はチェット・ヘイガン氏。対比して今さらながら、本邦では、出版物をはじめとしたゴスペル関係言説が、黒人に軸足を置いたものであることに疑念を抱く。米国人の研究においても、白人のそれを「コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック」とするなど、コンセプト整理と分類に諸説があるようだが。
この1年くらいは、そこそこ、ゴスペル・ミュージックにアプローチしてきたつもりで、、前掲書では若干の回答を提示してくれるが、繰り返して、当初抱いていたいくつかの課題にもどり、考え込むことになる。①個別のゴスペル楽曲の起源、あるいは、歴史的成り立ち②黒人、白人が歌うゴスペル楽曲の相違と交歓③ゴスペルの世俗昇華―などの課題である。
キリスト教に根差した歌の範疇には聖歌、讃(賛)美歌、祝歌、霊歌などのコンセプトがあり、それらと重なる部分を持ちつつ、20世紀に「ゴスペル」が成立、辞書的には、(教会に立脚するのではなく)民俗的な宗教歌とする意味を有するというが。
一般のポピュラー・ミュージック同様、楽譜集の出版、ラジオやレコードなどマスメディアによる流通システムの形成を通じた小産業体の成立過程や、ライブ・コンサートにあたる伝道集会のイメージが見えてきたのが収穫。特に後者、やはり、宗教そのものと宗教社会的な理解が足りないということが一番か。

2012年7月19日木曜日

「ただ君だけ」

「ただ君だけ」(ソン・イルゴン監督、2011)は、期待して見た人の満足を確保した韓流恋愛映画であった。孤独な男女の接近を描写しつつ、カットバックで明かされる、各々の過去の重大事件が交差するといったシナリオ構造は現代映画では常套だが、何よりも、この主演男優・女優の容姿とキャラクターのはまり具合がよい。
エンディングは、あらかた予定調和への収斂が想定されるストーリー・テリングに抗して、観客を軽くいなすようなプロットとその演出力に、脚本にも名を連ねねる監督の力量を感じた。
ところで、孤児院で育った設定の男役は、劇中の洗礼名が「マルセリーノ」。映画がらの引用であることが、台詞で分かるものの、日本語字幕(音声・韓国語は分からなので)では特定映画を示していない。私にとって、ヴィクトル・エリセ、ペドロ・アルモドバル、アレハンドロ・アメナーバルらが出てくる以前、スペイン映画といえば、「汚れなき悪戯」(ラディスラオ・ヴァホダ監督、1955) であった。そう、修道院で育てられた孤児、汚れなき悪戯児童としてのマルセリーノ。映画の展開としては、孤児であること以外、ほとんどリンクしていない。このような引用はハリウッド作品でも散見され、名作視聴による映画教育が機能している反映なんだろうか。監督は若手だと思われるのだが。
「汚れなき悪戯」は、キリスト教観に基づく奇跡が描かれているが、深層は、避けられない死を前ににした人間の心の安寧(落としどころ)だと思う。この映画を知っていて、「ただ君だけ」に入るとエンディングに不安を感じつつ見ていくことになるが、それも監督の計算のうち、とは考えすぎか。
あらためて「汚れなき悪戯」、見直してみたくなりました。


「ただ君だけ」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★★☆

2012年7月17日火曜日

〈ウィー・ワー・ソルジャーズ〉

ランドール・ウォレス監督による2002年の米国映画。邦題は「ワンス・アンド・フォーエバー」で、かつてTV放映で観て、コンテンポラリー・カントリーっぽい挿入曲が気になって、サントラ盤を探してみたが廃盤、最近やっとのことセコハンで入手、思ったよりも出来のよいコンピレーション・アルバムで満足しているものの、ちょっと複雑な気持ちにもなった。
これは「オリジナル・サウンドトラック」盤だろうか?
という疑問。14曲(トラック)収録されているが、劇中で使用されているのは2曲のみ?、エンドロールで流れているもののほか、フィルムには収録されず、キャンペーンソング、イメージソングの位置付け?の楽曲による編集盤。サントラは、別にスコア盤も発売されていたことも合わせて考えるに、ハリウッド映画ビジネスならではの仕掛けかと。「オリジナル・サウンドトラック」というラベルは日本風なのだろうが。
パフォーマーはジョニー・キャッシュデイヴ・マシューズ(Johnny Cash & Dave Matthews)による「フォー・ユー」に始まり、キャロリン・ドーン・ジョンソン(Carolyn Dawn Johnson)、メアリー・チェイピン・カーペンター(Mary Chapin Carpenter)、モンゴメリー・ジェントリー(Montgomery Gentry)、ラスカル・フラッツ(Rascal Flatts)らで、ライナーノーツによると、基本、この映画を見て書き下ろした楽曲であるという。何にせよ、それぞれの楽曲の質は高い。今後は、歌詞の方も読み砕いていくことに。
映画の方は、この時点でのベトナム戦争を総括すべき視点の提示。メル・ギブソン主演だけに、パワー・ゲームかとの予断が裏切られた点では良心的。而して、こうした戦争もの、正直、日本人ではある私は、米国人の立ち位置では観ることができないなぁと最近は思うようになってきた。

2012年7月16日月曜日

「オレンジと太陽」

先週のスクリーン鑑賞は結局、ケン・ローチ監督の御子息というジム・ローチによる「オレンジと太陽」一本のみ。戦後、1,970年ころまで、英国が「福祉」として実施した豪州への児童移民。出自の記憶と記録を失った移民サポートのため、社会的には忘れ去られようとしていたこの施策の解明に取り組んだ、ソーシャル・ワーカーの著作がベースといい、取り上げたテーマや映画の演出タッチは、さすがに父子と思わされるものであった。
国策ではあるものの、福祉・宗教など複数の団体もこの移民に積極関与したことが描かれ、告発される。さて現代を省みて、政策を動かす思想基盤の変化や、このテーマ自体にも興味が尽きないのだが、何よりも、わが国にも構造的に近似の話が多々あるのではとの、感慨が頭を巡り出す。
もちろん、戦前から戦後も、さまざまなシチュエーションと意味づけで行われた移民。あるいは、拘束と隔離を柱として実施されていた感染症や精神保健分野等の福祉施策、東アジアの諸国と軋轢が表面化する度に話題になる、戦中・戦前施策に関する歴史認識等々。それぞれのイベントに、その以前と以後があること、自分は知っているか落ち着いて考えてみることにする。

「オレンジと太陽」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★★☆

2012年7月11日水曜日

MLBでケリー・ピックラー

本日、メジャー・リーグ・ベースボールのオールスター戦を見ていると、ケリー・ピックラー(Kellie Pickler)の「ゴッド・ブレス・アメリカ」歌唱に遭遇。キャリー・アンダーウッド(Carrie Underwood)と同様、TVオーディション番組「アメリカン・アイドル」出身のケリー、今が旬で、よりアイドル色が強いなぁとのイメージ。現代ミュージシャン、この辺りのパフォーマンス映像は、インターネット情報化社会の恩恵で、容易にアクセス可能なことを今さらながら確認。懸案キャリー歌唱の「インディペンデンス・デイ」も堪能してしまった。
ご両人が「アメリカン・アイドル」で歌った履歴を調べてみると、マルチナ・マクブライドMartina McBride)、ボニー・レイット(Bonnie Raitt)のオリジナルなどで共通し、カントリーの本道といった印象。女王道を歩んで欲しいだけに今後も気にかけて置こうか。
ネット動画あるいはYouTubeシスター・ロゼッタ・サープ(Sister Rosetta Tharpe、1915~1973)のギターパフォーマンスが観られ、ブラインド・ウィリー・ジョンソン(Blind Willie Johnson、1897~1945)の歌唱が聞けるのも便利、ありがたいことです。

2012年7月6日金曜日

♪インディペンデンス・デイ

キャリー・アンダーウッド(Carrie Underwood)つながりで、カントリー・ミュージック聞き始めの1年半ほど前、店頭で見つけて読んだ『カントリー音楽のアメリカ:家族、階層、国、社会』(2008年)を思い出した。わが国の大学文学部に在籍するロバート・T・ロルフ氏が、「商業ルートに乗り広く歌われた主流のカントリー音楽」60曲ほどを取り上げて、米国の社会・文化・風土とそれらを形成する人々の心性を学究者視点で解読した労作。オリジナルは英文というが、こなれた日本語訳で、われわれ日本人が一般に思い描くアメリカとは違ったイメージを勉強させていただいた。
ロルフ氏は、同書で「最も成功した今日の女性カントリー歌手の一人」で、某歌手のような「天文学的数字ほどのヒットはないが、つまらない作品ばかりを歌うこともない」と、マルチナ・マクブライド(Martina McBride)を評し、持ち歌3曲を詳説しており、その一つが「インディペンデンス・デイ」。今回思い出したのは、現在の若者層はこの楽曲をキャリー・アンダーウッドの持ち歌だと思っているのではとの、脚注での指摘。キャリーは、近年日本でもBS某局で放映されるようになったTVオーディション番組の出身で、出演中から歌っていたという。これも、聞いてみたくなる。
徐々に、カントリーも耳に馴染んできたので、この本で論じられている内容の理解も進んできたかな。

2012年7月5日木曜日

♪マザーレス・チルドレン

カーター・ファミリー(The Carter Family)の「マザーレス・チルドレン」は、「ウィル・ザ・サークル・ビー・アンブロークン」などと同様、ニグロ・スピリチュアルからゴスペルへの脚色と昇華を歩んだ楽曲だった。ライナーノーツなどの解説によると、.A..P.カーターは黒人労働者が歌った「マザーレス・チャイルド・シーズ・ア・ハード・タイム」に着想を得ているという。この曲は、ブラインド・ウィリー・ジョンソ(Blind Willie Johnson)がマザーズチルドレンハブ・ア・ハード・タイム」として録音している。
ブラインド・ウィリーのこの楽曲についても、『黒人霊歌は生きている―歌詞で読むアメリカ』(2008年)で、たウェルズ恵子氏の考察がある。ご指摘の通り元歌は、スピリチュアルの「サムタイム・アイ・フィール・ライク・ア・マザーレス・チャイルド(時には母のない子のように)」。「マザーレス・チャイルド」という言葉の含蓄に注目したカーター・ファミリーの翻案バージョンのほか、ジョージ・ガーシュインGeorge Gershwin)がフォーク・オペラ「ポギーとベス」にフューチャーし、スタンダード・ソングの定番となった「サマータイム」はスピリチュアルの旋律にインスパイアされていることが知られる。あるいは、ウェルズ氏も言及したように本邦では寺山修司の作詞があり、つながりが見えてきた分、その時代と心性を読むことに興味をそそられる。
「マザーレス・チルドレン」、近年の録音ではロザンヌ・キャッシュ(Rosanne Cash)の歌唱が気に入っている。

2012年7月2日月曜日

カーター・ファミリー

アメリカン・ルーツ・ミュージックのコアな部分を担っているカーター・ファミリー(The Carter Family)のファンを自称しているが、末裔・系譜等のミュージシャンによるカバーバージョンしか知らない楽曲も多々あることを省みて、新たにCD2枚組のセットを2種、ネットで探して調達。うち1種は『THE ACME SESSIONS 1952/56&1956』という2008年英国盤で、何と、A.P.とセイラに、その子息、ジャネット、ジョーによるセッションで、興味深く聞き始めた。計58トラックあるものの、基本は約250曲あるといわれるオリジナル・カーター・ファミリーの録音楽曲が元歌のよう。
ロバート・アルトマン監督の遺作「今宵、フィッツジェラルド劇場で」(2006年)で、メリル・ストリープとリリー・トムリンが演じる姉妹デュオの歌唱「金の時計と鎖」も、オリジナルは手元になかったが今回の両セットにはそれぞれ収載。等々、楽曲リストをつくってみたい誘惑に駆られる。
さて、7月。気候も落ち着き、次のステップを見据えねば。

◆過去のメモと追記◆
□♪ワイルドウッド・フラワー、NGDBから始める。(2011/11/03)
♪Will the Circle Be Unbroken、カントリー・ゴスペルとは、(2011/11/06)
♪ダイヤモンドの原石)(2012/01/14)
♪マザーレス・チルドレン(2012/07/05)
アニタ・カーター(2012/09/19)
♪ドント・フォゲット・ディス・ソング(2012/10/08)
ルーツをたどり、レスリー・リドルへ(2013/02/04)
♪大きなまだらの鳥(2013/05/11)
♪キャン・ザ・サークル・ビー・アンブロークン(2013/05/12)
ウィーバーズまで戻って、♪バリー・ミー(2014/02/21)