2013年2月28日木曜日

「王になった男」

少しご無沙汰していた韓国映画で「王になった男」(チュ・チャンミン監督)。エンターテイメント時代劇の韓流製作力が各ポジションで発揮されいるのもよし。「影武者」君主の仕掛けに目新しさはないが、隣国関係や民を治める政治哲学といった暗喩メッセージなどに、製作陣のモチベーションがうかがえる。
コメディーととしての笑いのとりどころも韓流ならでは、私にはフィットする。而して、この遊びの部分を適度に抑えたのがこの映画の勝因では。世話物要素をまぶした作劇と演出、韓国映画は、まだまだ、勢いがある。

「王になった男」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★★☆☆
※韓流時代劇の好きな方にはプラスで。

2013年2月26日火曜日

「ゼロ・ダーク・サーティ」

2001.9.11.から10年にして、テロの主謀者・ビンラディン殺害にたどり着いた、CIAの実録劇。情報分析官の若き女性を中心にCIAの諜報活動がドキュメンタリー調に描かれる、キャスリン・ビグロー監督の「ゼロ・ダーク・サーティ」。英雄主義、ナショナリズム鼓舞とはいえないが米国史観の枠内に収まるもののエンターテイメント風味の味付けがなく、サスペンス感を醸す映像再現に注力した退屈させられない映画づくりは、「ハートロッカー」(2008)同様で、監督以下スタッフの力量はさすが。
「テロとの闘い」というのは、文字通り、現在の戦争。例えば「捕虜・容疑者への拷問」を巡る論争(25日付・朝日新聞朝刊など)、米国人にも増して、日本人においてなお、重い課題を多々突きつけられる思いに陥る映画であった。さて、ラストシーン、目的を遂げた女性情報分析官の涙の意味は何であったか。

「ゼロ・ダーク・サーティ」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆
※戦争もの好きな方にはプラスで。

2013年2月25日月曜日

「横道世之介」

「横道世之介」(沖田修一監督)、1980年代に大学進学のため上京した長崎出身の若者にまつわるストーリー。ゼネレーションは重なっていて、懐かしく共感するというのでもなく、「わかる、わかる」といった感じの、時代・キャラクター描写が続く。要は表題の通り髙良健吾演じるこの若者なのだろうが重心ではなく、小説が原作のためか群像劇要素を束ねようとの苦心のシナリオ構成は、3時間近くの長尺に達し着地点を焦らす。カットバックのはさみ方、年齢と時制に、あるいはストーリーテリングに、若干の甘さは感じたものの、通して心地よく観られ、余韻も悪くないのは確か。
行定勲監督の「きょうのできごと a day on the planet」(2003)に似た味わい、最も今回の方が事件も起こり寓話的でもあるか。而して、出来栄えの80%は記憶に刻まれうる「普通のよい人」を体現した、髙良健吾くんのパフォーマンスによるものであることには違いない。

「横道世之介」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆
※日本映画好きな方にはプラスで。

2013年2月19日火曜日

「東京家族」

小津安二郎監督「東京物語」(1953)トリュビュートとして、現在の「東京家族」(山田洋次監督)。想像していたよりは、よくできた作品だったとの感想。特に前半は小津監督をなぞった映画製作技法がたたみかけられ、かつて、山田監督自身が「反発」を公言していた小市民の世話話を描き、「東京物語」のリメイクと称しても違和感は覚えない。観終えてみると、やはり独特の「山田節」の台詞と人情喜劇感覚がベースになっていることに気づく。ほどほどに混雑した劇場での鑑賞、時間帯からか、若者といえる年齢層の観客は少なかったが、実際に中高齢層の方に感度が高い映画であるとも感じた。
「東京物語」で小津監督のミューズとして、自身の神話形成につながる主要なパフォーマンスを体現した原節子の一人の役を妻夫木聡と蒼井優の二人の役どころとして構築したのは、まさに山田監督のメッセージなのだろう。両映画の対比において、その違いを味わうのもよし。家族の中では小市民から最も遠い設定、普通感覚の装いが肝といえる。長男の医者、長女の美容師をはじめ、特段の悪意が強調されるわけでなく、押しなべて普通の人間を描くのは山田調で、一考してみるべき差異がうかがえる。東京暮らしとの対比で、その疲弊を憂う地域の生活への眼差しを忘れないのも山田監督ならでは。
エンド・タイトルはデジタル製作?、、、

「東京家族」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆
※日本映画好きな方にはプラスで。

2013年2月17日日曜日

「映画 鈴木先生」

原作はマンガで、TVドラマ化されて、、、と、エンターテイメント邦画の定番ルートを歩んできた「映画 鈴木先生」(河合勇人監督)。それぞの表現媒体に新奇な魅力があることもうががえるが、私は映画が初見、成人劇画調のキワドイ語り口で展開していき、落としどころは予定調和に抗して引っ張られる。その意味でトーンがつかみづらいとともいえるが、鑑賞後感としては、経済面に限らない「生きづらさ」が増幅しつつある、閉塞した日本社会の現況をアイロニカルに描いていると満足、映画化の意味を得た。マンガも、TVも未見、ほぼ事前情報なしでスクリーンに向き合ったので。このあたりは、「みなさん、さようなら」(中村義洋監督)もほぼ同様。
風間俊介の役どころは、ステレオタイプ過ぎるか。中学校というよりも、高校が舞台の方がよいのでは、、、とも思いつつ、この中学年代、自ら顧みるにしても微妙な心模様のステージだね。

「映画 鈴木先生」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★★☆☆

2013年2月11日月曜日

ジョージ・ジョーンズ

為替相場、円安に転じているものの、ジョージ・ジョーンズ(George Jones)のコンピレーション・4枚組みCDセットは1,000円未満、つい購入してしまい聴き始める。7つのクラシック・アルバムと、いくつかのボーナス・トラック&シングルでからなり、1950年代後期から1960年代初頭の録音。ヒルビリーからカントリーへの流れの時代であったか、妙に懐かしく心地よいサウンドで悦に入ってしまった。オプリもの、ヒット・パレードとしてレオン・ペイン(Leon Payne)らVAトラックも多々あるのも楽しみ、かつ、あらためてお買い得感。
主役のジョージ・ジョーンズは、何と言っても、粋で男気なホンキー・トンク節が魅力。しかも、ハンク・ウィリアムスへのトリビュート盤、カントリー・ゴスペル盤も収録されていて、この間の傾聴分野にフィットし大満足。レオン・ペイン「アイ・ラブ・ユー・ビコーズジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)の「アイ・ウォーク・ザ・ライン」レイ・プライス(Ray Price)の「ハートエイクス・バイ・ザ・ナンバー」等々、今にしても「カントリー・スタンダード」といえる楽曲群の歌唱も好きだな。

2013年2月8日金曜日

「みなさん、さようなら」

「みなさん、さようなら」(中村義洋監督)、キヤッチは「一生、団地お中だけで生きていく。そう決めた少年の、20年間の物語」、確かにその通りであった。これも原作はコンテンポラリーの小説、ここ何年も原作をおさらいする観方はしていないが、妙に相性のよい中村監督と主演の濱田岳のバランス感に不満はなかった。原作はさておき、特異な味と香りを醸す濱田少年への「あて書き」シナリオをもって成り立った映画というのが感想。
原作の持ち味なのだろうが、そこも確かに「内向き」な日本社会の現在が表出されている。シナリオ構造の帰結が、カタルシスに昇華しないのは凡庸か、非凡か。エレファントカシマシの歌唱はフィットする。
そういえば、邦題が同じアカデミー賞外国語映画賞のカナダ映画もあったね。

「みなさん、さようなら」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★☆☆☆

2013年2月4日月曜日

ルーツをたどり、レスリー・リドルへ

渉歴のいきがかりで、『ロックを生んだアメリカ南部 ルーツ・ミュージックの文化的背景』(著者・ジェームズ・M・バーダマン、村田薫両氏)も読み通す。アメリカン・ルーツ・ミュージックを説いた本邦の書籍としては、私のひっかかりに丁寧に答えていただいた内容と満足してしまった。タイトルにあるロックとは、エルヴィスとディランに収斂させたキャッチな論考で、実際には「ロックを生んだ」の部分を削った書名が相当と受け止められる。個人的には、ほぼこの2年くらいの嗜好音盤に即して、①スピリチュアルとゴスペルを巡る黒人、白人それぞれの成り立ちと交歓の様子②アパラチアに根付いたバラッドの特性―等の周辺解説には納得。南北戦争後の歴史経過と地勢を踏まえた、ミシシッピ・デルタでのブルース、ニューオリンズでのジャズ誕生の描出然りである。
この書籍の論考が有益と感じたのは、読者は日本人と想定された噛み砕いた記述、共著者がジャンル音楽の専門家ではないゼネラルな人文学者、かつ一人は同地の出身であることで、キリスト教各派の成り立ちや人種や階層構成といった文化的背景を語るバックボーンが確かなことによる。
そう、カントリー・ミュージックのルーツ、カーター・ファミリーの音楽には、歌集めやギター・テクニックの手本として黒人のギター弾き、レスリー・リドル(Lesley Riddle)の貢献が大きいのでした。手持ち文献を参照してみると、レスリー、隻脚でつま弾く手指も2本失っていることに、あらためて驚く。深南部でないとはいえA.P.、カーター・ファミリーとレスリーの人間関係も。

『ロックを生んだアメリカ南部 ルーツ・ミュージックの文化的背景』の評価メモ
【自己満足度】=★★★★★
【お勧め度】=★★★★★
※これも新刊でなく、2006年の出版。

◆追記◆
♪ジョン・ヘンリー(2014/11/03)