2012年9月28日金曜日

アニタ・カーターとドクター・ストレンジラブ

アニタ・カーター(Anita Carter)のCDアルバム『RING OF FIRE』から気になった楽曲をもう一つ。アニタのクレジットとなっている「ジョニー、アイ・ハードリー・ニュー・ユー」。スタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情」(1964)で、よく知られた旋律。他の映画でも耳にすることが比較的多いメロディーはアイルランド系民謡と記憶していたが、調べてみると、南北戦争の時代にマーチとしてスコア化されたポピュラー楽曲「ジョニーが凱旋するとき(ホエン・ジョニー・コムズ・マーチング・ホーム)」で、その源流にあたるのは「ジョニー、アイ・ハードリー・ニュー・イェー」というトラディショナル・フォークなのだそう。
確か、ほぼ同時期に製作された、南北戦争パートのある「西部開拓史」(監督:ヘンリー・ハサウェイ 、ジョン・フォード 、ジョージ・マーシャル、1962)でもマーチ曲が挿入されていた。南北戦争にまつわる米国史と厭戦(反戦)気分を象徴する位置にある楽曲なのかな。
当該歌唱は、ミルト・オークン(Milt Okun)プロデュースによるニューヨークではなく、ジェリー・ケネデイ(Jerry Kennedy)によるナッシュビルの1962年録音で、アニタが古謡をベースにアレンジしたバージョンということらしい。いわゆるカントリー調ではない、フォークスタイルの印象、この意味合いも興味深いところ。

◆追記◆
♪ジョニーは戦場に行った、なの?(2014/03/02)

2012年9月25日火曜日

アニタ・カーターとミルト・オークン

アニタ・カーター(Anita Carter)のCDアルバム『RING OF FIRE』を聞きながら、フォーク調の編集が気になって、ブックレットを参照しつつ、少しく調べてみた。1964年のニューヨーク録音は、ピーター・ポール&マリー(Peter, Paul and Mary)、ハリー・ベラフォンテ(Harry Belafonte)、ブラザーズ・フォー(The Brothers Four)、ジョン・デンバー(John Denver)ら多くのミュージシャンでを手がけ、フォーク・リバイバル期に、大衆への訴求力ある音楽製作で力量を発揮したミルト・オークン(Milt Okun)の役割が大きかったことが判明した。
ボブ・ディラン(Bob Dylan)やトム・パックストン(Tom Paxton)楽曲採用のほか、「ノー、マイ・ラブ、ノー」、「マイ・ラブ・ラブズ・ミー」などの選曲やアレンジがオークン。オークンの采配が生きた歴史的録音となっているわけだが、解けなかった疑問も。
「ノー、マイ・ラブ、ノー」をタイトルとする曲は、トラディショナルとしてクレジットがあるが、PP&Mの「悲惨な戦争(Cruel War)」として知られたもので、こちらではストゥーキーとヤーロウの作となっている。歌詞に変わりないようだが?
「マイ・ラブ・ラブズ・ミー」は、古いシャンソンの「愛の喜び(Plaisir d'Amour)」の旋律。といえば、エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)の「好きにならずにいられない(Can't Help Falling In Love)」の録音が数年先行しているのに思い当たるが、こちらは異なる歌詞。クレジットにはレイ・エヴァンス(Ray Evans)とジェイ・リビングストン(Jay Livingston)とあった。アルフレッド・ヒッチコックの「知りすぎていた男」(1956)の劇中歌「ケ・セラ・セラ」やクリスマスの定番「シルバー・ベル」など、映画畑に縁が深いヒットメーカーコンビ、このシャンソン翻案バージョンはどのような敬意と経歴があるのか?と、、、

2012年9月24日月曜日

〈ゴーストワールド〉に生きる

アナログ放送受信時代の録画ストックを思い出して、「ゴーストワールド」(テリー・ツワイゴフ監督、2001)を観る。ソーラ・バーチスカーレット・ヨハンソンのボリューム感が、学卒で社会へと踏み出すティーンエイジャーのリアルな日常を体現。ティーン好きのコンテンポラリーなパンク、ロック感覚から入っていくが、ジャズ、ブルース、ラグタイム等のルーツ系コレクターの中年男が狂言回しとなる。
サウンドトラック、楽曲面では、聴き直して再認識した部分多々あるものの、秀逸は、やはりスキップ・ジェイムス(Skip James)。「デビル・ガット・マイ・ウーマン」との出会いいいじゃない。モチベーションが妙にかぶってしまう。
さて、私の乗れるバスはやってくるか?

2012年9月19日水曜日

アニタ・カーター

週明けに待ち望んでいたカーター・ファミリー、メイベル・カーターの三女、アニタ・カーター(Anita Carter)のCDアルバム『RING OF FIRE』が届く。探しものへのアクセス、まことにインターネット・オンライン社会の利便性に感心、ありがたさも身に染みる。
CDは1962~1964年録音のオリジナル・レコード再編盤なのかな。製作時期がフォーク・リバイバルの隆盛という時代背景を反映し、アルバム・コンセプトは「フォーク・ミュージック」に聞こえるものの、天性の優しく柔らかな歌声と「ガール・ネクスト・ドア」感の親しみやすさに魅了されてしまった。私見ではファミリー一番の美貌と美声。
収録曲は、当時のコンテンポラリー・フォーク、トラディショナル、カーター・ファミリー・クラシックがほどよいバランスで、興味深く聞ける。意外なところでは、初期ディランの「フェアウェル」。ふと考えたのだが、表題曲の「リング・オブ・ファイア」はジョニー・キャッシュより先に録音していたのか。この曲も含めたて、アニタ自身はソロ活動において商業的な成功を得ていないが、果たしてそれは不幸なのか、幸いなのか?とりあえずこのアルバムを聞けることは、リスナーにとって心穏やかなことといえる。
とりわけファミリー・クラシックには誘引、「アイ・ネバー・ウィル・マリィ」に心動かされ、長女・ヘレンのコーラスでサポートされた十八番、「ワイルドウッド・フラワー」もまさにお家芸の秀逸さである。
こうした歴史的録音の米・英盤CDでは、ブックレットが充実しているのも嬉しい。何分、本邦文献では情報量自体が不足。当面はアニタに没頭しつつ、読解に精を出すことに。

◆追記◆
♪リング・オブ・ファイアー(2011/12/07)
アニタ・カーターとミルト・オークン(2012/09/25)
アニタ・カーターとドクター・ストレンジラブ(2012/09/28)
アニタ・カーターとハンク・ウィリアムス(2014/02/25)
ディランの♪フェアウェル(2014/06/01)

2012年9月17日月曜日

隠れた、カントリー・ミュージック映画

ゴールデンラズベリー賞候補の常連でもあるし、自分の視聴嗜好からは最も遠いジャンルと思い込んでいた、「スティーヴン・セガール」ブランドのプログラム・ピクチャー[沈黙の断崖」(原題:Fire Down Below、フェリックス・エンリケス・アルカラ監督、1997)を、TV放映録画にて鑑賞。ケンタッキー州のとある田舎街が舞台で、ステレオ・タイプなヒルビリー堅気をプロット・ベースにしたヒーロー・アクションとロマンスが展開される普通の通俗映画。関心したのは、やはり、要所に典型的なカントリー・ミュージックを配していることと、ネガティブなカントリー地域の描出。
映画出演では実績のある、クリス・クリストファーソン(Kris Kristofferson)、レヴォン・ヘルム(Levon Helm)が、名前のある役をあてがわれているほか、マーティ・スチュアート(Marty Stuart)、トラヴィス・トリット(Travis Tritt)らが劇中演奏シーンでミュージシャンとして登場。鑑賞後、気になって調べてみると、ほかに、ランディ・トラヴィス(Randy Travis)、エド・ブルース(Ed Bruce)、マーク・コリー(Mark Collie)などのコアなカントリー・ミュージシャンがカメオ出演していることが判明。セガールのギター・パフォーマンスはお遊びとして、意外にも「マニッシュ・ボーイ」がサウンド・トラックに入っているなど、音楽面で楽しめる「拾いもの映画」であった。クリストファーソンが敵役、悪徳企業のオーナー経営者を怪演しているもの見どころ。
ちなみに、日本語サイトではほとんど、この映画の音楽に言及しているものは見当たらず、サウンドトラック盤にも行き着けず。さらなる解読のためにも、録画は消去しないでもう一度観てみることに。
そう、村上由美子氏の『イエロー・フェイス ハリウッド映画にみるアジア人の肖像』、あるいは、井上一馬氏の『ブラック・ムービー アメリカ映画と黒人社会』にならったアプローチで、こうした「カントリー観」抱合映画をフォローしていきたいものである。

2012年9月14日金曜日

1985年のフォークジャンボリーから

今週は数年前に亡くなった知人から引き継いだCD約1000点近くの整理、彼はロックファンだったので、「うた好き」の私とは傾向が異なるものの、重なりがない訳ではない。洋もの、和もの7対3くらい。ロックのルーツ系が散見できるので、徐々に。とりあえずは、オムニパス、コンピレーションものから聞いていこうと、セレクトしたのが『武蔵野フォークジャンボリー’85』
収録出演者は、遠藤賢司、なぎら健壱、斉藤哲夫、大塚まさじ、渡辺勝、中川イサト、高田渡で、パフォーマンスも充実。どれも名演だが、ロック・スピリッツあるカッコよさなら遠藤賢司、斉藤哲夫、うた好きの私は、なきら健壱「フォークシンガー」、大塚まさじ「プカプカ」に反応。大塚氏のバージョンに味わい、とりあえず1週間堪能。

2012年9月13日木曜日

「夢売るふたり」

「テイク・ディス・ワルツ」(サラ・ポーリー監督、2011)に続いて、表現を曖昧にとどめることを好む西川美和監督の「夢売るふたり」(2012)。旧作で初めて長編を観たのは「ゆれる」(2006)、巷の評判は相当の作品であるが、作品、評判ともに、私には腑に落ちなかった。「ディア・ドクター」(2009)で、概ね西川監督が表出したい世界観が分かったような気がして、その理解によって、「蛇イチゴ」(2003)も納得して観られる佳作だと思った。アイデンティティ喪失論とは異なる文学的なアプローチによる、リアル世界を生きる、外見「曖昧な日本人」の描出は、そのれ自体、日本人が好むテーマなのかな。
西川作品はキャスティングと演出の妙にも味があり、「夢売るふたり」も然り。しかしながら、西川ワールドとしてはエピソードと伏線が満載な分、収斂しない着地点で、寛解感に到達できなかったのは残念だった。

「夢売るふたり」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★★☆☆

2012年9月8日土曜日

「テイク・ディス・ワルツ」

「マリリン 7日間の恋」(サイモン・カーティス監督、2001)に次いで、今年2本目のミシェル・ウィリアムズ。ほどほどな肉付きの小柄で、日本人好きする童顔、生活感がにじむ若妻の日常小世界を演じた本作「テイク・ディス・ワルツ」(2011)、は、前作品とはまた異なるミシェルを堪能できた。ミシェルのファンなら、お買い得、邪気のないエロス(?)で満悦感に浸れる。2005年に出産、2008年には突然のヒース・レジャーの死と、節目を超えてきたミシェル。よい仕事しているなぁと思う。
さて、映画のできは、というと、悪くははないが、想像力を刺激する曖昧さを提示しつつ昇華がない。而して、ミシェルとほぼ同世代、カナダのサラ・ポーリー監督、女性の視点と感性ならでは意志のある世界の描出とコラボレーションは、及第と納得できる。

「テイク・ディス・ワルツ」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆

2012年9月2日日曜日

ロック古典

2月の引っ越しを契機に、ロック好きの友人遺産として継承したCDから再度発掘し、『クラプトン・クラシックス』(1991年)、『ローリング・ストーン・クラシックス』(1987年)を、聴き直す。もともと、ロックはそれ程といった距離感があったものの、ビートルズ、ストーンズは第2世代的に後追いながら、好みの音楽として親しんできた。そこでのインパクトがまた、アメリカン・ルーツ・ミュージックへの傾倒に導いてくれたのだが。振り返ってみて、本邦ではミュージシャンのルーツ探究コンピレーション・アルバムとしては、このストーンズ辺りが走りであったか。
ストーンズをよく聞いていた当時、「ブラック・ミュージックがルーツ」などといった言い方もあり、クラプトン盤ともに、発行元の意向か、確かにブルースおよびR&Bが中心、共通するミュージシャンも多い編集になっている。ライナーノーツの小出斉氏も共通。この分野では碩学を極めている小出氏、ストーンズ盤の「ブルース/ソウル/R&B」の元歌録音リスト(当時)提供に歓心。そうでした氏監修の書籍『ロックがカヴァーしたブルース・スタンダード100曲』(2010年)は、辞書に頼るがごとくお世話になっておりました。
私の最近の傾向からの1曲は、クラプトン盤、ステイプル・シンガーズ(The Staple Singers)の「スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット」。あと、ビートルズ、ストーンズって、カントリー、ロカビリーも好きだよなぁとよぎりつつ、その系統のコンピレーション盤はないものかと。