2013年1月31日木曜日

「つやのよる」

「つやのよる」(行定勲監督)、「ある愛に関わった、女たちの物語」っていうのは副題なのかな。日陰の淫靡な性愛世界、いかにも日本文学といった原作が素材で、リズム、テンポっていうか、間の定め方をはじめ、行定監督の力量が存分に発揮された仕上がり。副題の通り、女優の面々を観る映画でもあったものの、メーンの阿部寛に加えて、岸谷五朗の役もインパクトが強かった。
かといって、オムニバス構造の帰結がカタルシスを呼び起こすことはなく、一般受けする映画でないことも確か。
作家性の高い監督としては、コンスタントに作品を発表している行定監督。見過ごしも多々あるので、近作はおさらいしてみようか。

「つやのよる」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★☆☆☆
⇒大作ものに満足できない映画ファンにはプラス★

2013年1月28日月曜日

《明治演劇史》も読む

『明治演劇史』(著者・渡辺保氏、2012・11)も朝日新聞の書評掲載直前に読了(日経はしばらくく前に載っていた)。この書が史論として成り立つのは、著者がエピローグで提示しているように、①急激な近代化②強く推し進められた天皇制③三度にわたる戦争の体験―の3の視座をもって明治の演劇が説かれる姿勢が貫かれていることによる。3つの視座はそれぞれ、政治史のテーマであること、演劇芸能とその関わりが明朗に描写されていることに、あらためて目を開かせられる。
歌舞伎の九代目・市川団十郎、人形浄瑠璃の摂津大掾、あるいは、新演劇の川上音二郎といったキーパーソンへのフォーカス、あるいは新しい演劇の胎動や「能楽」誕生の描写も興味深く読めた。「壮士芝居」程度の認識だった川上音二郎の人物像と生き様に接近できたのは、今回が初めてだったかも。あたりまえのことだが、この時代、動画・記録映像は残されていなく、劇評をはじめとした文字アーカーブと写真、著者の観劇キャリアを基に史論が組まれている。メディア機能に大きな役割を果たした演劇、このあと、映画が隆盛する時代に突入する時代についても、演劇・映画史論を聴きたいとも思った。

『明治演劇史』の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆

2013年1月19日土曜日

《昭和演劇大全集》を読む

『昭和演劇大全集』(2012・12)を読み通してしまって、ひとしきりの満足。2007年4月から2年ほど、NHK‐BSによる同名の舞台放映番組の案内人、渡辺保高泉淳子の両氏による対談採録・編集本である。概ね、高泉氏が聞き手役として、放映する演劇の解題とその歴史背景に関する渡辺氏の発言、問答が毎回30分程度収録されていた。その対談が妙に面白くて、当初は観たい演目だけチェックしていたが、結局はほとんどを録画して視聴することに。
映画に軸足がある人間の私は、都会文化?身体性とライブ感の優位?など、演劇人とその文化には妙なコンプレックスを感じていただけに、史的視座から演劇を学ぶ機会を与えてくれた示唆に富む対談、よい番組であったと思う。
あらためて、個人的な面白さの度合いは、ほぼ同世代で地方出身者いった高泉氏との共通基盤が多いことによる共鳴によるもの。東宝で演劇製作を仕事にしていたキャリアにもまして、古典劇・現代劇、双方に関する知見が厚く、批評眼と批評言質が確かな渡辺氏の率直な言葉によってまた増幅された。演劇には、まだまだ評論が成り立っているんだとも思ったりも。本当は、渡辺氏の『明治演劇史』が刊行されたと知り、書店でみつけて合わせて購入、昭和を先に読んでしまった次第。
あと、舞台上演やTV中継の映像化・保存という技術革新過程での経緯。そう、TV放送開始しばらくは確かに劇場中継が多かったような記憶がかすかにあるな。録画テープが比較的安価にな1980年前後までは、せっかくの放映は行われていても安定して保存を残すことができなかったなんて、、、今は昔、隔世の感、、、、。惜しいに尽きる。一方で、NHKも2011年度の放送波・番組再編で、舞台・芝居物が著しく減少しているのも残念。

『昭和演劇大全集』の評価メモ
【自己満足度】=★★★★★
※対談を読んで、また、舞台を観たいという気にもなるが、さて、録画ストックはすべてビデオテープ。デジタル化、ディスクに慣れた現在は、ちよっとセッテイングなど腰が重いが、、、。
【お勧め度】=★★★★☆
※昭和の映画をある程度好んで観ている方には、お勧め。戯曲や原作文学の同根、舞台の映画化など共通演目はもちろん、映画でも活躍した多くの役者の出自とバックボーンが見えてきますし。


2013年1月12日土曜日

《ロバート・ジョンソンを読む》


『ミシシッピ・ブルース・トレイル ブルース街道を巡る旅』と一緒に購入してしまったのが、『RL―ロバート・ジョンスンを読む アメリカ南部が生んだブルース超人』(著者・日暮泰文氏)。元来、ブルースはレコードで聴いていなく、ロバート・ジョンソン(Robert Johnson)もコンプリート版CDは、とりあえず置いてある程度だったので、2年近く前の初刷発売時には、敷居が高かったのは確か。
今回手にしてみて、志を持ったカントリー・ブルース傾聴へのアプローチとして、そこからモダンなブルースへの飛翔が学習できたのが大きな成果。RLの評伝や全曲解説に、Pヴァイン創業などの著者のキャリアと才気が表れているが、基礎資料と想像力を基に構成された小説風の足跡再現は、楽しい読み物であった。ニューポート・フォーク・フェスティバルへの主演!!!等が活写されるなんてである。とりわけ、「クロスロード伝説」を巡る濃厚な論考では、ロマンに陥ることなくディテールの積み重ねで伝説の成り立つ可能性を示唆してくれていることに好感し共感した。
メンフィスからジャクソンにかけてのデルタ地方「RLランブリン・マップ」も収載、現地歩きの叙述は、一般旅行本である『ミシシッピ・ブルース・トレイル ブルース街道を巡る旅』と対極。ミシシッピ・ブルース・トレイルは良きつけ悪しきにつけ、あくまで観光振興の文化プロジェクトであったなど、両方読んでみて感じる部分に意味を見つけることもできた。

『RL―ロバート・ジョンスンを読む アメリカ南部が生んだブルース超人』の評価メモ
【自己満足度】=★★★★★
※RL生誕100年にあたる2011年の出版で、新刊ではないですが。

2013年1月9日水曜日

《ミシシッピ・ブルース・トレイル》

新年、カントリー・ブルース志向を意識してすぐ、書店店頭で『ミシシッピ・ブルース・トレイル ブルース街道を巡る旅』(著者・桑田英彦氏、2012・09)に遭遇してしまう。これは啓示と、購入して途中まで読んでいた洋書を横に置いて流し読みを始める。ミシシッピゆかりのブルースマンにまつわるマーカー(記念碑)設置を担う現地の財団による文化プロジェクトの名称が「ミシシッピ・ブルース・トレイル」なのだそう。このマーカーをたどった文字通りの音楽の旅本で、写真がふんだんのビジョアルが楽しく、やはり、土地に暮らす人となりまでがインスパイアされるイメージに触れてこそ、その音楽に関する理解も深まると納得する。
音楽雑誌の編集者・ライターとしてキャリア豊富な桑田氏の知見には興味をそそられる部分が多い。ロバート・ジョンソン(Robert Johnson)の、悪魔と取り引きでギターの技術を得たといういわゆる「クロスロード伝説」とその場所、そして彼の「三つの墓」など然りである。ミシシッピ州のデルタ地方が中心であるがもちろん、隣接するメンフィス、ニューオーリンズ、あるいはブルースマンにとどまらず、ボ・ディドリー、アイク・ターナー、エルヴィス・プレスリー、サム・クックといったゆかりの面々も言及され、あらためて、大都会ではないこの土地に由来する音楽の豊かさに驚くばかりだ。実際にはなかなか出かけられないだけに、ひたれる紙上旅。インターネット優位なITの浸透に伴う出版苦境にあって、この書籍の体裁には、まだ魅力を感じた。

『ミシシッピ・ブルース・トレイル ブルース街道を巡る旅』の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
※広域地図とマッピングの掲載、写真説明の情報量を多くして欲しかったとの希望はあり
【お勧め度】=★★★★☆
※コアなブルースマニアではないアメリカ音楽やロックの愛好家の関心とリンクするとも思うが、一般の邦人ブルースファンはどう感じるか、興味のあるところ。

2013年1月5日土曜日

♪ロック・オブ・エイジズ

新年早々、タイトルに誘引されて入手した『When I Lay My Burden Down』という、フレッド・マクダウェル(Fred McDowell)、ファリー・ルイス(Furry Lewis)、ロバート・ウィルキンス(Robert Wilkins)、3人のブルースマンによるCDをかけ流していたら、ロバート・ウィルキンス「ロック・オブ・エイジズ」に反応してしまった。旋律はウディ・ガスリー(Woody Guthrie)の新しい詩作で知られている「わが祖国(This Land Is Your Land)」、歌っている歌詞が違うんで、タイトルも見ると「ロック・オブ・エイジズ」。ここで?、この表題から想像されるのは、大概の日本人でも耳に馴染んでいる英国産の讃美歌206番「ちとせの岩」、カントリー・ゴスペルとしてもよく歌われているよう。これとは旋律は別だが、確かに、と「~ロック・オブ・エイジズ~」との歌詞は含まれている。
同時進行で思い出したのが、ウディ・ガスリーは確か、カーター・ファミリー「ホエン・ザ・ワールズ・オン・ファイア」の旋律をベースにしていたということ。ロバート・ウィルキンスはカーター・ファミリーの歌詞を歌っているのかとも思うが、いまひとつ、はっきり聞き取れない部分も。
若干調べて分かったのは、この旋律も讃美歌由来。思い返して、このCDアルバムのジャンル・コンセプトは「カントリー・ブルース」。以前、「ゴスペルを巡るブラックとホワイト」(2012/02/09)でメモった疑問に答える端緒がここにあるよう。「ドント・フォゲット・ディス・ソング」(2012/10/08)で記したグラフィック・ストーリー本『the Carter Family : Don't Forget This Song 』でも、カーター・ファミリーの面々と黒人音楽家との交流も実感できたし。
本年の大きなテーマは「カントリー・ブルース」か。ロバート・ウィルキンスは、マクダウェルからストーンズを経て波及したスピリチュアル「ユー・ガッタ・ムーブ」の録音もあるみたいだし。そう、スピリチュアル、ヒムの歌詞の聞き取り、読み取り(読解)も勉強せねば、である。

◆追記◆
そういえば、「ロック・オブ・エイジズ」と同タイトルのミュージカルの映画化版が、結構最近公開されていたな。見逃し。ロック・パフォーマンスとしてはマイ・フェイバリットのザ・バンド(The Band)のアルバム(1972年)にもあった。これも未コレクションだが。表層の掛詞でつながっているこの3点、それぞれ、深層のつながりはないんだろうなと推測しつつ、追記2点の鑑賞も追々ということで。