2014年6月27日金曜日

♪ジョン・ブラウン、って誰だ?

『THE SPIRIT OF RADIO』のCDシリーズの『STUDS TERKEL'S WAX MUSEUM』でライブ演奏されている(ディランの♪フェアウェル、2014/06/01)、ボブ・ディラン(Bob Dylan)のスタジオ・アルバム未収載曲の一つ「ジョン・ブラウン」。戦争に送り出した息子が不具に変わり果てて帰還するプロットで構成されたアイリッシュ・フォークの「ミセス・マクグラス」のコンセプトを援用した作詞ということであるらしい。
反戦・厭戦歌であり、アイリッシュがオリジナルって「バターミルク・ヒル」、「シューラルー」「ジョニー、アイ・ハードリー・ニュー・イェー」の系譜が生まれた精神性とも関係しているのかな(♪ジョニーは戦場に行った、なの?、2014/03/02)。
類推でいくと「ジョニー」がフィットするとも思えるが、では、何故にディランは「ジョン・ブラウン」という人名をあてたのか。われわれ日本人にはあまり知られていない米国史の一角に、「リパブリック讃歌」の系譜に位置する「ジョン・ブラウンズ・ボディ」のバリアント(もしくは原型?)があることを思い出す。ジョン・ブラウンは南北戦争勃発以前のラジカルな奴隷解放運動家、タイトルにある「ボディ」は蜂起扇動に失敗したジョン・ブラウンが北部の連邦政府にって反逆罪で絞首刑とされた、彼の「屍」を意味するものであった。「ボディ」が「ベビー」に置き換えられたバリアント、日本語版の遊戯歌といった派生のありようにも驚く。人物の評価が一様には収まらず、歌世界では「ボディ」を想起せずにはいられない、この人名を冠したディラン歌唱、なかなか米国人が聞くようには聞こえていないだろうなぁと、ここでも痛感。

2014年6月22日日曜日

「スイートプールサイド」

とりあえず観てみた「スイートプールサイド」(松居大悟監督)。いかほどかプロットが進んでも、いや遂に終映まで心の落ち着き所がなかった映画である。笑う、照れる、期待する、蔑む、慮る、自戒する??原作は漫画ジャンルであろうとは容易に想像されたが。「青春剃毛映画」???品位を欠いた下ネタ・ギャグとは世界観が異なる。フェティシズムへの寛容を試されているかのごとく。この少女俳優の発話トーンと台詞語りは演出なんだろうか、そこは気になった。最近は製作委員会ものラッシュだけに、何故に歴史ある大手映画会社の企画・製作であったかも。漫画、オリジナルのテイストはどんなふう、、、という比較の鑑賞もあるだろうが、、、
サブカル臭、恐らくは意図されたのであろう居心地悪い感が最大の特色、カタルシスがないだけに、素直に「この映画が好き」と言うには難がある。

「スイートプールサイド」の評価メモ
【自己満足度】=★★★☆☆
【お勧め度】=★★☆☆☆

2014年6月19日木曜日

「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」

あやうく見逃すところだった。ジョエル&イーサン・コーエン監督の新作、モデルにしたのはデイヴ・ヴァン・ロンクだっんだね。「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」、ちょうどボブ・ディランの初期の楽曲を聴き重ねていた私にとってセレンディピティな幸せ。まさにエンディング、グリニッジ・ヴィレッジのカフェで主演者の演奏と入れ替わりでディランとおぼしきパフォーマーが「フェアウェル」ディランの♪フェアウェル、2014/06/01)を歌い出しエンドロールにつながっていく(サウンドトラックはディラン)!!!
現在進行形でお気に入りのキャリー・マリガンが出ているもの多幸感が膨らむ。白い美しい肌、ルーウィン・デイヴィスとの悪態のやりとりでは演技の幅に感心しつつ。
ニューヨークという大都会の1961年、文化人やインテリゲンチャの関心の高まりがあってか、音楽ジャンルの中でもフォークは「金になりそう」な風向きの予感がただよい始めたころ、海員上がりで好きな音楽で生計を立てようと奮闘する男の生活のありさま、彼のガールフレンドや大学教授ら交友関係のキャラクター、この都会においてアパラチアの音楽と演奏者に対するアンビヴァレントなリアクション、、、コーエン兄弟が描出した映像はどれにも興味を引き付けられた。特に、私見では民衆音楽としてのフォークと、過度に商業化した音楽の大量消費時代突入の分かれ目のエピソードとしての意味合いにおいて。わが国と対比してみると見えてくるものもあったり。
「フェアウェル」、航海で旅立つ惜別ソングということでシンクロ効果もあり。しかし日本語表記としては「フェリウェル」というの方が適当か(そう聞こえる)。
映画のタイトルはデイブ・ヴァン・ロンク自身のアルバム・タイトルにちなんでっていう感じか?まあ、設定とプロットはリセットし直した創作としても、デイブ・ヴァン・ロンクディランの師匠筋だと思っていたのだが、マーティン・スコセッシの映画やロンクディランそれぞれの自伝で、また、2人の関係をたどりたくなった。例の「ヒー・ワズ・ア・フレンド・オブ・マイン」(〈ブロークバック・マウンテン〉を聴いてみる、2013/10/06とかも含めてね。
音楽は「オー・ブラザー!」(2000)でルーツ・ミュージックの新たなリバイバルをもたらした、T=ボーン・バーネットのプロデュースで(「オー・ブラザー!」を聴き直す、2013/05/10)、今回も相性のよさが発揮されている。ここにも聴き解く楽しみがあり。サントラ盤、どうしようか。

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★☆☆

◆追記◆
ディスクをっ引っ張り出して、「ノー・ディレクション・ホーム」(マーティン・スコセッシ監督、2005)を観直してみる。インタビュイーらの立ち位置と発言内容、シチュエーションへの理解が進んできたと思う。この映画自体、多大なドキュメンタリー映画等の映像で再構成されているので、「アイム・ノット・ゼア」(トッド・ヘインズ監督、2007)を観た時に感じるデジャヴの誘因と思い当たる。デイブ・ヴァン・ロンクのインタビューはそこそこの分量が採用されているが、やはり、面白かったのは、ロンクが持ち歌としていた「朝日のあたる家」の我流コードを、ディランが初めてのレコード録音の際、借用を申し入れたものの断った、云々という件。収集・評論家からのレコード持ち出し事件といい、ディラン、そんなに忌み嫌われ憎まれているわけでもない。「ヒー・ワズ・ア・フレンド・オブ・マイン」ロンク・パフォーマンスの映像引用があったが、楽曲とディランの演奏についての言及はなかった。
同じく直接の説明はないけど、「アイラ・ヘイズのバラッド」♪アイラ・ヘイズのバラッド、2013/08/28)が作者のピーター・ラファージ自身による演奏のさわり映像も収録されていた。あらためて調べてみると、この楽曲のディラン版は1973年リリースのアルバム『ディラン』収載で録音は1970年ころらしい。「はげしい雨が降る」を巡るやりとりは、スタッズ・ターケルのラジオ番組に同じ。(2014/06/20)

2014年6月17日火曜日

「ぼくたちの家族」

石井裕也監督の新作で「ぼくたちの家族」。男の2人兄弟の子育てが終わりかけたかに見える郊外に住居を構える夫婦、「難病+ファミリードラマ」ジャンルということになるが、粗くくすみがちな映像トーンは何を表現しようとしているのか。開始早々の不安が増幅していく展開。そうだよなぁ、映画や近代文学の歴史って、「崩壊家族」の諸相だよぁ、、、リアル自分の立ち位置を顧みつつ低いモチベーションのままドラマは進んでいく。
而して、石井監督が描いた終結は、希望をつなぐ「家族再生」!??
映像トーンといい、車の凹み一つといい、監督の演出は行き届いている。であれば、この最初から崩壊していたと思われる家族に救いを与えたかに見える創作意図は何であったのか。長男の会社の上司であるとか、次男がセンカド・オピニオンを求め巡り会った医者であるとか、プロットの要所に人情味が顔を出すものの、例えば山田洋次監督の「東京家族」(2012年)といったふうに社会・コミュニティの不安定化が強調されいる訳でもなく、この家族が崩壊している深層も明朗には語られない。咀嚼することで味わいが出る仕上がりにはなっている。

「ぼくたちの家族」の評価メモ
【自己満足度】=★★★★☆
【お勧め度】=★★★★☆

2014年6月8日日曜日

ディラン、ファースト・アルバムの元歌対比集

ボブ・ディラン(Bob Dylan)のルーツ・ミュージック続きで、ファースト・アルバム『ボブ・ディラン』(1962年)の13曲に交互に想定される元歌を織り込んだ、総計26トラックのコンピレーションCDに巡り会ってしまった。収録ナンバーの多くは私にとって馴染あるとは言い難く、自分で探し編集し直すとなると手間がかかることを考えると、スムーズな聴き比べができ、ありそうでなかった好企画に感激するとともに、目からウロコのマイ発見もいくつか体験できた。クレジット上では、「トーキン・ニュー・ヨーク」「ソング・トゥ・ウディ(ウディに捧げる歌)」の2曲がデイラン作となっていたのかな、況やあらためて、若きディランの琴線に触れた元歌、ルーツ・ミュージックの香りにひたることができ、ディラン・パフォーマンスの特徴も際立って受け止められた。
そう、「イン・マイ・タイム・オブ・ダイイン(死にかけて)」ブラインド・ウィリー・ジョンソン(Blind Willie Johnson)の「ジーザス・メイク・アップ・マイ・ダイイング・ベッド」、元歌はニグロ・スピリチュアルだったんだ。思い当たって、フレッド・マクダウェル(Fred McDowll)のバージョンを手持ちのアルバムで2件(ひとつはインスト)確認することができた。ちなみにタイトルは「ジーザス・ゴナ・メイク・アップ・マイダイイング・ベッド」と、また少し異なるものの。ダミ声というか、しゃがれた歌声の意図も分かったようになったり。同じような感じで、「ゴスペル・プラウ」オデッタ(Odetta)の「ホールド・オン」だったのね。これもたどるとスピリチュアルなんだろうね。そうか、『フリーホイーリン』(1963年)の「風に吹かれて」では、やはりオデッタが歌っていたスピリチュアル「ノー・モア・オークション・ブロック」の、リフレインにフィットする旋律が参考とされているようだしね。ライブ盤『オデッタ・アット・カーネギー・ホール』(1960年)では両曲が続きになっていた。
してみると、ディランオデッタ好きがよく分かり、後々、ゴスペルを歌う姿に意外さはないなぁ。

◆追記◆
♪1913年の大虐殺(2014/01/17)

2014年6月1日日曜日

ディランの♪フェアウェル

アニタ・カーター(Anita Carter)のCDアルバム『RING OF FIRE』収載の「フェアウェル」(1964年録音)という楽曲はボブ・ディラン(Bob Dylan)クレジットになっていて、ディランの当時の公式盤には収録されていなく、いわゆる海賊盤の音源があり、近年の”公式”のブートレッグ盤シリーズにも収録されたという経緯であるらしいが、やっと、『THE SPIRIT OF RADIO』のCDシリーズ、『STUDS TERKEL'S WAX MUSEUM』ディラン本人のパフォーマンス(1963年)を聴くことができた。ラブ・ソングの範疇なんだろうが、ディラン・パフォーマンスはアニタとは別物、ワクワク感を醸すというかストロークがフォーク・リバイバルの鼓動を、歌声はチャレンジャーを体現している。
ライナー・ノーツによると、何と、「北国の少女」と同様に渡英時のマーティン・カーシー(Martin Carthy)らとの交流による感化が起点、イングリッシュ・フォーク「リビング・オブ・リバプール」(?)が元歌であるという。手持ちのトラディショナル・フォークのディスクを探ってみる。『ベスト・アイリッシュ・ソングズ』というコンピレーションCD集にローズ・マリー(Rose Marie)の歌唱版「ザ・リーヴィング・オブ・リバプール」が収録されていた。なるほどね、確かに、と興味惹起。云、でもイングリッシュ?、アイリッシュ?
ディラン・ソングのルーツ面白すぎだな。「北国の少女」再び、♪北国の少女、2014/04/29)といい、「ヒー・ワズ・ア・フレンド・オブ・マイン」〈ブロークバック・マウンテン〉を聴いてみる、2013/10/06)といい。そう、ウディー・ガスリー方式でトピカル・ソングに仕上げた「戦争の親玉(マスター・オブ・ウォー)」にメロディーを借用したという、ジーン・リッチー(Jean Ritchie)のアパラチアン・マウンテンズ・フォーク「ノッタムン・タウン」も最近、別のコンピ盤で聴くことができた。ノッチンガム(ノッチンガムシャー)辺りの地名なのかね、英国本家バージョンってあるのだろうか?あと、『Johnny Cash At San Quentin』(legacy edition)の「ウォンテッド・マン」が未解明(再び、ボブ・ディランとジョニー・キャッシュ、2013/07/14)だったね。

◆参考◆
YouTubeから引用、紹介です。「ザ・リーヴィング・オブ・リバプール」、グリニッジ・ヴィレッジの先輩格、クランシー・ボーイズ(The Clancy Brothers)のパフォーマンスで。

◆追記◆
『STUDS TERKEL'S WAX MUSEUM』を聴き進めると、1963年初頭の渡英でマーティン・カーシーに教わったバラッドが元歌の楽曲がさらにもう一つ。「ボブ・ディランの夢」は、「ロード・フランクリン」、または「レディ・フランクリンズ・ラメント」とか「ザ・セイラーズ・ドリーム」のタイトル知られている歌なのだそう。素直に、この曲への意識は薄かった、元歌系のバージョンを探してみいたが、今のところ行き当たらず。「北国の少女」とも1963年5月にリリースされた『フリーホイーリン』収載、スタッズ・ターケルのラジオ番組でのライブは同年4月26日となっているのも面白いところ。一番は、スタッズ・ターケルによるインタビューの聞き取りであるだが、、、
ライナー・ノーツに目を移してみて、さらにさらに、「ブーツ・オブ・スパニッシュ・レザー(スペイン革のブーツ)」マーティン・カーシーの影響下にあり「北国の少女」と兄弟曲を構成していることに、またまた驚く。こちらは1964年リリースのアルバム『時代は変る(ザ・タイムズ・ゼイ・アー・アチェンジン)』収載。この曲もマークしていなかった(『時代は変る』のだが、、、2014/08/28)。詩作としては、カーター・ファミリーはじめ米国でも広く歌われているブリテッシュ起源のバラッド、「ブラック・ジャック・デヴィッド(またはデヴィー)」にインスパイアということらしいが、この聴きたどり・検証は、また、あらためて。
『STUDS TERKEL'S WAX MUSEUM』の収載は以下の7曲(※印は公式スタジオ・アルバムでのリリースなし)。演奏の間にスタッズ・ターケルとの会話が挟まれている。ブロードサイド・バラッドやトピカル・ソングを昇華した詩作でボブ・ディランがフォークいわれる所以、あらためてであるがのめり込んでしまう。
 ①フェアウェル(※)⇒(「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」、2014/06/19
 ②はげしい雨が降る
 ③ボブ・ディランの夢
 ④スペイン革のブーツ⇒(♪スペイン革のブーツ、ってバリアントも、2014/08/02
 ⑤ジョン・ブラウン(※)⇒(♪ジョン・ブラウン、って誰だ?、2014/06/27
 ⑥フー・キルド・デヴィー・ムーア?(※)
 ⑦風に吹かれて⇒(ディラン、ファースト・アルバムの元歌対比集、2014/06/08