2012年6月21日木曜日

《李香蘭と原節子》

先日、四方田犬彦氏の著作・岩波現代文庫李香蘭と原節子』(2011年)を読了。2006年(明治39年)が満鉄(南満州鉄道株式会社)の設立100年で、研究出版物や報道等の情報量が増えたこと、同年にNHKで「中国映画を支えた日本人―”満映”映画人秘められた戦後―」が放映されたことなどを契機に、しばし、その周辺学習がテーマとなっていた。同書は2000年刊の『日本の女優』がベースとのことで、こちらは未読だっただけに、映画史家・四方田氏の冷徹な慧眼に基づく論説は、私が得ていた読書知識の整理・統合にとても役立った。
同書タイトルの2人の女優に加え、前述NHK番組で紹介された、満映(満洲映画協会)出身の映画編集者・岸富美子氏の3人が主役、そろって1920年(大正9年)生まれである数奇さゆえの結節点を基に比較批評が語られている。冷徹さの基軸は、2人の女優を、それぞれの「神話」として歴史的に分析していること。ナショナリズムと歴史認識って、リアルタイムで繰り返し政治・経済課題に浮上してくるが、こうしたテキストは、歴史に学び、糧とする意義を確認させてくれる。
四方田氏も提起しているが、上海・中華電影の川喜多長政、甘粕正彦の下、満映で映画製作の実務を担った岩崎昶の両氏について、映画人としての通史研究成果を、もっと知りたいと思い直したところだ。
あと、四方田氏ほど、関連の歴史的フィルムが観れていないのには、羨望の念。

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